2024年 (令和6年)
5月6日(月)
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午前10:00から
午後 6:00まで

 『大きな根をはった町の魚屋さん』

 町の中にしっかり溶け込んでいる。斎藤鮮魚店は、そんなお店だ。中に入ると、ちょっと魚の匂い。
 店内には魚だけではなくお菓子なども売っていて、コンビニのような店内になっている。ついつい目移りしてしまう。店の奥には立派な魚の解体場があり、台の前には新鮮なカレイやヒラメが並んでいた。取材の途中、ここで3代目が魚をさばく所を見せてくれた。作業をしながら、注文があれば、魚のさばき方から、煮つけのやり方のレクチャーまでしていると話してくれた。

editer saito 04 そんな斎藤鮮魚店を切り盛りしているのは、2代目店主栄一さん、栄一さんの奥さん、3代目になる息子さんの3人だ。
今回は、店主の栄一さんのお話を中心に聞いた。こちらの質問に、年齢を感じさせないはきはきとした口調で答えてくれた。「結婚したのはいつ頃か?」という質問には照れ臭いのか、奥さんに答えさせるなど、微笑ましい一面も。
 お話を伺っていると「町の魚屋さん」という単語が、ふっと頭に浮かんできた。今の時代、○○○屋さんと名のつけたくなるお店は、幕別町からどんどん消えてしまった。専門店よりもスーパーなどの複合店のほうが、いろいろあるし、買物も時間短縮になるだろう。しかし、斎藤鮮魚店のような温かさや、店内から感じられる歴史には乏しい。
 この店は栄一さんの母が、樺太から引き揚げた後に苦労して建てたそうだ。当時、幕別町には12件の魚屋があり、450人のお客さんをつけなければ、店を出すことすらできなかった。栄一さんの母は、他のお店で働きながらお客さんを見つけ、店を建てた後、そこで家族10人を養ったという。
 当時小学校3年生だった栄一さんは、積極的に配達やご用聞きをして店を手伝った。将来は手先の器用さを活かしてエンジニアになりたかったらしい。しかし、母が苦労して建てた店を放っておくことができず、跡を継いだ。8人兄弟の中で男性は栄一さんと末っ子だけ。しかも英一さんは長男だったからだ。
 3代目も札幌で魚屋をしたいという夢を持っていたが、店への思い入れがあったのだろう、幕別へ戻って来た。2人とも違う道を目指していたのに。家族のために、この道を歩んだ。
 そのおかげで、斎藤鮮魚店は今も残っている。町にしっかり溶け込んでいる理由が、少しだけわかったような気がする。
 斎藤鮮魚店は幕別町に大きな根を張った、すてきな魚屋さんだった。

取材先:斉藤鮮魚店
執筆者:浦辺実奈