『仕事には人生が表れる』
2つ会社名が書いてあるドアを開けると様々なお酒が出迎えてくれた。ようこそ木川商店へ。ペレットストーブの暖かさが、寒い中を歩いてきた身にはありがたい。私達の椅子の座り心地を気にかけてくれる木川商店のご夫婦。とても気の良い夫婦だ。
木川商店で扱っているお酒の中でも、地元幕別産のじゃがいもを約1年熟成させた、すっきりした飲み口の焼酎「インカのめざめ」や同じく幕別の畑から穫れた黄金千貫(さつまいも)を使った「農業王国」が木川商店のいちおしだ。「この2つは『お偉いさんに持っていくから切らさないで』とお客さんに言われているんですよ」と笑う店主の滋さん。両方とも720mlサイズがあり、価格もお手ごろ。お試し用の小さなサイズもあるといいなとひそかに期待している。
ここで木川商店とっておきの手づくり商品を紹介したいと思う。その名も「幻の黄金ゆり根コロッケ」。幕別産インカのめざめ(じゃがいも)と忠類産ゆり根の運命の出逢い。コロッケの形を丸にするか俵型がいいか、芋とゆり根の割合や大きさを何度も試作し、ようやく完成した逸品である。
滋さんは、「自分は考え、食べる人。奥さんは作る人」とにやり。このコロッケの原料となる芋を見せてもらうと、「大きい」と周りからどよめきが…。コロッケになってしまえばわからない原料を拝見できたのは、うれしかった。今度はぜひ、食べてみたい。 木川商店では以前、生の魚を置いていたそうだ。「今は1本ままの魚を買う人は少ない」と言う。だから物事の全体を見られなかったり、魚は切り身で泳いでいると思う子どもを産んでしまうのかもしれない。 大量に仕入れて安く売ることができるスーパーには値段ではかなわない。価格より安心を、信頼できる商品や限定品、名前の知られていないものに力を入れているという滋さん。何度も足を運び販売の許可を得た「宝来のぎょうざ」は、表に旗を出してから一気に売れ始めたそうで、まさに一旗上げたのである。
奥さんは「ぎょうざの広告を出した」と言い、滋さんは「出してない」と言う…そんな夫婦のかけ合いも楽しく、場の空気を和ませてくれた。 「納得のいかない商品は売らない」。仕事に対する滋さんの真摯な姿勢を信頼し、商品の値段を聞かないで買ってくれるお客さんもいるという。雑誌「和楽」の中で、千利休は「一度失敗したら終わり」というギリギリのところで生きていた人間」と評されていたことを思い出した。「一度信用を失くしたら注文は来ない」と言っていた滋さんの姿と重なった。
何を選ぶか、今こそ私達消費者の眼が試される。発展途上国では、品物が不正に低い価格で取引されている現実がある。安く買える事はありがたいが安さの背景にある実態を知るべきではないか。その点、木川商店は全うな商品を生産している人、そして価格は高くともそれを買ってくれるお客さんとの繋がりを大切にしている。
今回の取材を終えて、私も木川商店と同じ思いを持って仕事をしていることに気づいた。「食」という字は人に良いと書く。その字の通り、食べることが人に良くあってほしい。そうではないことが多い現代にあって、木川商店はこの願いを叶えているように思う。
「自分が出来る事をやっていけばいい」、「仕事には人生が表れる」。どんな時もブレない木川商店の芯の強さを見習いたいと思う。
取材先:木川商店
執筆者:岡田陽江