読むものに飢えた経験がある人は、本を大事にする。平和な時代だけを過ごした人は、平和を粗末にする。この二つ、どこか通じるものがありそうです。
『華氏451度』(≒摂氏233度)は、紙が燃え始める温度。1953年に書かれたSF小説で、本を持つことが禁止され、人々は耳にはめた超小型ラジオや大画面テレビで情報を与えられる社会を舞台にしていて、1966年にフランソワ・トリュフォーによって映画化もされています。ブラッドベリは後に、「この作品で描いたのは国家の検閲ではなく、テレビによる文化の破壊」と述べています。大宅壮一がラジオやテレビの影響を予測し、「一億総白痴化」と評したのは1957年のことでした。
『疎開した四〇万冊の図書』は、旧都立日比谷図書館の蔵書を戦禍から守ろうと、大八車を押し、あるいはリュックを背負って大量の本を疎開させた人々のドキュメンタリーです。また、戦前、思想統制のため多くの本が閲覧禁止になっていたこと、終戦後は、秘密の漏えいを防ぐことを名目に資料を焼却した地方図書館があったこと、GHQが占領政策に都合の悪い図書を「没収指定図書」にしたことにもふれています。
幕別町図書館の「北の本箱」に15年前からたくさんの本をプレゼントしてくださっている福原義春さん(資生堂名誉会長)も中学生の時に疎開生活(※)を体験しています。「私という人間は今まで読んだ本を編集してでき上がっているのかもしれない」――その福原さんの心に残る本103冊が紹介された『本よむ幸せ』は、いつでもどんな本も読める時代に生きている幸せを思うとともに、何を読もうか迷った時に開いてみたい一冊です。
福原さんの疎開生活での読書体験は、『だから人は本を読む』(福原義春 東洋経済新報社/2009.9)で。 (な)
三冊堂125号 (2014/01/23)