シマフクロウもキツネもヒグマもいなくなった―。1970年代、北海道小清水町に訪れた「沈黙の春」。“キタキツネの獣医”として知られる著者が、「100年の森をつくる」ために、小清水町の農民たちと始めた自然環境保全40年の活動をまとめた『「オホーツクの村」ものがたり』。私たちを取り巻く自然環境は40年前よりも、もっとずっと深刻な状態になっていると著者は言う。駆除よりも共生―。「小清水町自然と語る会」の自然に対する付き合い方を通じて、今の自然環境の現状について深く考えさせられる。
北海道のキタキツネの9割は人間と何らかの接触を持っているのだそう。キタキツネは、人と森の境界線を歩くが、近年、人間と野生動物たちとの境界線が崩れてきているのだと著者は言う。北海道の自然風景と、こちらに向かって語りかけてくるような表情の生き物たちの写真とともに、自然と人間社会の関わりを危惧する思いを綴った写真エッセイ『北国からの手紙』。日暮れ時のピンク色の空の下、水色の雪の上にいる2匹のキタキツネ。なんとも美しい表紙の写真に目を奪われる。むやみに距離を詰めるのではなく、かといって恐怖心を抱いて互いに排除するでもなく、相手を理解しその違いに敬意を持って接すること―。美しい写真の数々に心惹かれながらも、著者の言葉が心の奥深くに響く。
生まれて初めて雪を見た子ぎつねのぼうやは、雪の眩しさと冷たさにびっくり。ぼうやにあたたかな毛糸の手ぶくろを買ってあげたいと思う母さんぎつね。けれども、人間に恐ろしい目にあったことを思い出し、母さんぎつねは足がすくんでしまう。そこで、ぼうやをひとりで手ぶくろを買いに行かせるのだが…。人間はちっともこわくないと言うぼうやとは対象的に、本当に人間はいいものかしらとつぶやき続ける母さんぎつねの姿が印象的。どいかやさんの優しく、あたたかなタッチで描かれた新美南吉の代表作『手ぶくろを買いに』。 MCL編集部(ふ)
三冊堂384 (2019/1/24)