2024年 (令和6年)
11月24日(日)
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 優れたミステリーであり、至高の恋愛小説でもある、歌野晶午の『葉桜の季節に君を想うということ』。2003年に発表された本作は、日本推理作家協会賞や本格ミステリ大賞を受賞し、「このミステリーがすごい!」第1位にも輝くなど、様々なミステリー賞を総なめにした作品です。タイトルの印象とは少し異なり、物語はハードボイルドな一面を覗かせます。登場するヤクザたちの姿は生々しく、悪徳商法の恐ろしさも濃密に描かれているこの作品。悪徳商法に騙されてしまった女性・古谷節子や、離婚してしまった成瀬の友人・安藤史郎も加わり、ばらばらに展開される一見何の関係もない登場人物たちが、見事にひとつの線として繋がる瞬間は興奮してしまいます。すべてのトリックが明かされた時、秀逸で美しい、このタイトルの意味を知ることができるでしょう。花を咲かせるときだけ注目されがちな桜の木ですが、花を落とし、葉を茂らせ、綺麗に紅葉した桜を見てみたくなる小説です。

 伏線を張り巡らせた、巧みな構成が光る『名も無き世界のエンドロール』。行成薫のデビュー作で、2012年、小説すばる新人賞を受賞しました。幼なじみの2人の男性の物語を、エンターテインメント性に富んだ豊かな文体で綴った作品です。幼い頃から人に巧妙なドッキリを仕掛けるのが得意だった「ドッキリスト」のマコトは、いつもキダをターゲットにし、体は大きくてもドッキリに弱いキダは、毎回のように見事に引っかかります。小学校のときから親友同士の2人は、ドッキリを仕掛けたり仕掛けられたりして多くの時間を共に過ごしてきたのでした。そんな2人も30歳を過ぎ、マコトはワイン輸入会社の社長、キダは何やら怪しい裏稼業に就いています。社長になっても相変わらずのマコトは、「プロポーズ大作戦」なるものを計画したらしく、キダもそれに協力することになり…。ばらばらに登場するシーンすべてがひとつにつながり、「プロポーズ大作戦」の全容が明らかになったとき、驚愕とともに、あまりの愛の強さを目の当たりにし、切なさに圧倒されることでしょう。軽妙な語りの中にも、様々なことを考えさせられる重みがあり、一気に読ませる力のある作品です。
 読者をミスリードへと誘い込み、あっと驚く結末が待ち受ける傑作ミステリー『ハサミ男』。どんでん返しがすごいことで有名な本作は、2013年に他界した推理小説家・殊能将之のデビュー作となっています。1999年、メフィスト賞を受賞、2005年には、映画化もされた小説です。事件の真犯人を殺人鬼が追うという斬新なストーリーもさることながら、ハサミ男の視点と、警察側からの視点が交互に繰り返される展開に、先が気になりどんどん引き込まれてしまいます。できれば、なんの先入観も持たず読み始めていただきたい小説です。気がつかないうちに、作者の仕掛けた罠にどんどんはまり込んでいくことでしょう。すべての真相が明らかになったとき、その衝撃に思わず声を上げたくなってしまいます。読み終えたあと、もう1度最初から読み直して確認したくなるでしょう。圧巻のどんでん返しに魅了される、良質な推理小説になっています。 MCL編集部(し)

三冊堂357 (2018/07/19)