定年退職、リストラ、あるいは家族を失ったことで人生の目的を見失い、東京で孤独に生きる人間が、人との出会いにより自分の人生をとり戻す転機を迎える。『深海の夜景』は、そんな人間ドラマを描いた短編7編です。「余生の証明」では、現役時代、仕事中心主義だった男が、定年退職を迎え”何をしてもよい自由”に戸惑い、一日中JRの環状線に乗車する”何もしない自由”に充実感を見い出しはじめます。そんな中、ひとりの家出少女との出会いをきっかけに、人生の彩りをとり戻していきますが、好事魔多し、隣家に反社会勢力と思われる人間が引っ越してきたことからトラブルが多発。再び人生の色彩を失いはじめます。
神谷美恵子さんは、7月18日に105歳で亡くなられた聖路加国際病院名誉院長の日野原重明さんが、「日本人に生きがいとは何かを、改めて考えさせてくれた人」と評する人物ですが、一般的にはほぼ無名といえます。しかし精神科医でありながら、哲学書・文学書を何冊も翻訳したり、美智子皇后の相談役でもあったとされるなど、多方面で活躍された人物です。『人生は生きがいを探す旅 神谷美恵子の言葉』には、65歳の若さでその生涯を閉じた彼女が、自分の使命と感じたハンセン病患者との交流等を通じ探求した「人は何のために生きるのか」について紡いだ85の言葉がまとめられています。神谷美恵子さんの静かな、けれども熱い心の葛藤から生まれた言葉が、私たちの心を大きく揺さぶります。
ビジネスマンの定年までの生涯労働時間は約9万時間になるそうですが、定年後から平均寿命までの活動時間は、この時間とほぼ同じくらいになると言われています。そんな長い時間をどのように生きるか。『55歳からの「一生モノ」入門 』は、2011年春に朝日新聞の生活面でスタートした連載「55プラス」の一部を収録したものですが、「気象予報士になる」、「マジックをマスターする」など55歳からでもチャレンジ出来る仕事や趣味など、定年後を生きるヒントがいくつも掲載されています。長寿社会を迎え、55歳という年齢は、平均寿命の3分の2程度を過ごしたにすぎず、定年までには、まだ十分な時間もあります。「余生」ではなく「誉生」を生きるために、何かに取り組み、新しい自分と出会いたくなる一冊です。