2024年 (令和6年)
6月6日(木)
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 どんな文章であっても、何かを書くとき、知らず知らずのうちに、いつもそのつながりを求めている。散らばった記憶の断片。消えてしまった記憶の痕跡。かつてそこにあり、今や失われてしまった何かを紡ぎ合わせるために書かれたエッセイ集『生命と記憶のパラドクス』。「記憶」という書店のオークションで落札した、1960年に刊行された「エスエフ世界の名作」シリーズ。送られたきたそれは、本の装丁や挿絵など何から何まで昔のまま。今と昔の自分は、物質的に全く別人になってしまっている。が、かろうじて今と昔をつないでいるこの儚い記憶だけが自己同一性のよりどころで、1ページずつ記憶を確認するその作業は、年を取ることのささやかな喜びなのだとか。

 現在知られている動物のおよそ25%にあたり約40万種あるとされる甲虫。花をつけるものだけでも30から40万種といわれる植物。どちらも生物多様性の高さは引けを取らないが、植物は、燃料や食料、住まいと薬といった生活に欠かせない物質的なもののほか、自然の景観や美しく造られた庭などで見られるその様が、人びとに特別な感情をも与えてくれる。北極から見つかる動植物の化石は、今から5000年前では赤道と北極の気温差がほとんどなかったことを明白に物語っているなど、地球の歴史を知るための重大な情報、記憶が封じ込められた植物の化石をひも解き、地球の歴史を植物から見つめ直す 『植物が出現し、気候を変えた』。各章のテーマにされている「大きな謎」に、探求心がそそられる。
 海辺で波のリズムにのり前へ後ろへ転がる石、川岸に積み重なった石、庭の小道に並べられた石。あたりにあるただの小石は、万物のはじまりから地球の変遷、その先の未来まで、数え切れないほどの物語、情報が詰められている。小石から137億年という遥かなる時間をのぞいた『小石、地球の来歴を語る』。たくさんの、非常に多くの原子の集まりである小石を、いろいろな種類の飴玉が入った袋に譬えるなど、幾ばくか易しく解説されているのが嬉しい。地球と人びとが生きた痕跡は、さまざまなカタチ、色、手触りの小石となって語り継がれている。 MCL編集部(そ)

三冊堂243 (2016/05/12)