大地を覆っていた白い雪が解け、道端にひょっこりと顔を出した福寿草やフキノトウの黄色がまぶしく輝やき、十勝の春の息吹をほのかに感じます。
アイヌの人々が花の黄色に神の光を見たり、心を見抜く眼差しにたとえ、「フクジュソウのような目」と言い表した花。アイヌ語で「チライアパッポ」と名付けられた福寿草は、「イトウ(チライ)」「咲く花(アパッポ)」という意味があり、この花が咲くと、イトウが川へ遡ってくることからそう呼ばれていたと伝えられています。狩猟、漁撈の民であるアイヌの言葉に、「花」にまつわる名称はあまりなく、福寿草にだけ全道的に名がつけられているのだとか。植物の名前から北海道の古を垣間見れる『アイヌ植物誌』。
かたくり、はまなし、ふきのとう。十勝の数々の草花が描かれた六花亭製菓の包装紙。そのデザインは、北海道の開拓民であり画家の坂本直行が手がけたことで有名です。1963年、フキのトウの芽ぐむ頃に書かれた直行の随筆、『私の草木漫筆』では、フキのトウは長い春からの解放感と、緑に飢えた人間の心に歓喜をあたえると綴られています。直行が春の山菜の王と呼ぶフキのトウ。春を味わえるのは、まだこれからです。
「やちぶき」とも呼ばれる「エゾノリュウキンカ」は、春を告げる花。つぼみが開く前の茎や葉は、山菜として食することもできるそうです。町の有志で、10年以上にわたり調べまとめられた『色でわかるみぢかな草花』は、花の色とその咲く順番、時期、場所、大体の背の高さで分類された幕別町の財産ともいえる植物図鑑。15年前には確かに町内で見られた草花が見つけられなく、反対に山奥でしか見られなかったものが町内で見つかったこともあったのだとか。郷土の歴史を植物から辿ると、新たな芽を見つけることができるかもしれません。 MCL編集部 (そ)
三冊堂238 (2016/03/31)