何かとお別れの話題が多くなる季節。寂しくて痛々しい、忘れられない「出会いと別れ」が描かれた小説を紹介します。
直木賞受賞作家でもある桜庭一樹さんの『砂糖菓子の弾丸は打ち抜けない』 当初中高生向けのライトノベルとして発表されたこの小説は、冒頭で物語の結末である「主人公の親友の死」が示唆される衝撃的な始まり方をします。主人公である「なぎさ」の回想という形で親友「藻屑」との出会いまで遡り、決して覆ることのない残酷な結末に向かって進んでいく…。「最後はこうなってしまう」とわかっていても読み進める内にそうならないでほしいと願ってしまうのは、彼女たちがあまりにも無力な「子供」だからなのかもしれません。
過去にセンター模試の問題文にも採用された「栗樹」など、10代の少年たちの友情と苦悩を繊細な文体で描いた5編を収録した短編集。表題作である『鳩の栖』の主人公は転校してまもない内気な中学生・操。友達を作るのが苦手な操はクラスの人気者「至剛」の優しさに触れ、やがて友情を育むようになる。至剛の家に招かれ「水琴窟」を鳴らしたり、至剛の友達とも打ち解けるようになったりと、静かながらも幸せな時間を過ごす操。しかし病に侵されている至剛に残された時間はあと僅かで…。
最後に紹介するのは『きみにしか聞こえない』 携帯電話に憧れる女子高生の「リョウ」は「自分だけの携帯電話」を頭の中で想像しながら日々を過ごしている。ところがある日、鳴らないはずの頭の中の携帯電話が鳴りだして、受話器から知らない男の子の声が語り掛けてくる。電話をかけてきたのはリョウと同じように孤独を抱えながら生きる「シンヤ」。どこに住んでいるのかも、お互いの顔もわからないまま、誰よりも強く結びついた二人はやがて本当に会う約束をするが…。前二つとは違いファンタジックな要素を含んだ作品です。それ故にクライマックスである目的のために「携帯電話」を使うリョウの姿が切ない。 MCL編集部(小)
三冊堂235号 (2016/03/17)