2002年、現役サラリーマン初のノーベル賞受賞として日本国内で時の人となった、ノーベル化学賞受賞者・田中耕一さんの自伝『生涯最高の失敗』。本書も、本人が書いた「田中本」として大きな話題になりました。「おくゆかしい」と表現された田中さんが執筆した理由には、「理系の人間は 自分を理解してもらう努力が不足している」という課題に自ら取り組むためでもあったそうです。ノーベル賞を受賞したことで変化した周りと自身について語ったコトバは、田中さんの人柄があふれていて、ノーベル博物館の館長があげた個々人とって創造性をあげる9つのことを誰もが持っていると述べているのは、技術者のみならず万人に光をあてているように思えます。
ノーベル生理学・医学賞の受賞の連絡を受けたとき、自宅の洗濯機を修理していたというのは、様々な細胞に成長できる能力を持つiPS細胞の作製をした山中伸弥さん。受賞決定の2日後に出版された、山中さんのこれまでの人生を語った『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』。柔らかでユーモア溢れる語り口調は、理化学系の本が苦手でも引き込まれます。「ジャマナカ」と馬鹿にされ、臨床医をあきらめた挫折からはじまったという研究。苦悩というものは、人生を豊かにさせるエッセンスなのかもしれません。
ノーベル賞というものの力によって、ベストセラーを書くわけじゃなくても、自分の書きたいものを書いて家族で生活するという保証をもらったと感じたと語るのは、1994年に文学賞を受賞した大江健三郎さん。創作秘話、東日本大震災と原発事故、同業者との友情と確執などを対話形式で綴った『大江健三郎 作家自身を語る』の中で、受賞時の心情を語っています。また、長男の光さんについて、一人と親としての想いを語られていて、淡々しながらも想いが連なるコトバに親しみを覚えます。ノーベル賞受賞の背景には、さまざまなドラマがあるようです。 MCL編集部 (そ)
三冊堂213号 (2015/10/15)