「銀の雫降る降るまわりに、金の雫降る降るまわりに」という美しいフレーズは、『アイヌ神謡集』の冒頭に掲載されている「梟の神の自ら歌った謡“銀の雫降る降るまわりに”」の最初の部分です。詩才を惜しまれながらわずか19才で世を去った知里幸恵。アイヌの少女が、アイヌ民族のあいだで口伝えに謡い継がれてきたユーカラの中から神謡13篇を選び、ローマ字で音を起し、それに平易で洗練された日本語訳を付けました。神謡(神のユーカラ)とは神々が主人公となって自分の体験を語るという形式をとる比較的短編の物語だそうです。神謡の世界では、谷地の魔神も海の神も沼貝さえも自ら歌います。
「まわれ めぐれ めぐれよ 遥かなときよ…」絵本『かぐや姫の物語』で、まだ幼い姫が聞いたこともないのに歌って涙ぐむ歌です。ある日、竹取の翁が山で竹を取っていると、光る竹の根元から小さな芽が出てきてスルスルと伸び、その先に光かがやく小さな女の子が座っています。家に連れて帰るとその小さな女の子は急に普通の赤ん坊になります。やがてぐんぐん成長し美しい娘に育ち、御門さえも会いに来ますが月に帰る日が近づきます。なぜ、かぐや姫は地上に降りてきたのか?なぜ月に帰ることになったのか?この歌にヒントが隠されているようです。
歌手のアンジェラ・アキが10代の時に30歳になったら渡して欲しいと母親に預けた「未来への自分へ」宛てた長い長い手紙。母親から届いたこの手紙を読んで「この手紙をもっと早く読んでいたら、もっと強く生きられたのに」との思いから誕生したのが「手紙」という曲だそうです。この曲を通じてアンジェラ・アキと中学生の1年に及ぶ交流の一部始終の記録、感動のドキュメンタリーを書籍化したのが『拝啓 十五の君へ アンジェラ・アキと中学生たち』です。中学生たちの生の声を真剣に受け止めようとする姿に、目頭が熱くなり、歌の持つ力を強く感じさせられます。 MCL編集部(紀)
三冊堂210号 (2015/09/24)