2024年 (令和6年)
7月17日(水)
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 「恋はするものではなく、墜ちるもの」。そんな恋のうたを詠んだ3冊を紹介します。りんぼう先生こと国文学者の林望さんが選んだ、13人の恋のうたをまとめた『女うた恋のうた』。古事記・万葉集の時代から明治・大正時代まで、女性の恋のうたの系譜をたどります。平安時代を代表する和泉式部・式子内親王などの王朝歌人や、江戸時代に京都祇園で茶店の店主であり歌人であった祇園梶子、昭憲皇太后(明治天皇皇后)と貞明皇后(大正天皇皇后)など、有名な人物から光のあたらなかった人たちを取り上げています。その人の生きた時代背景や身分などで恋の形は様々であり、作られる恋のうたも様々。そんな女性の恋する想いを、りんぼう先生が解き明かしています。男性には少ない、香りや皮膚感覚を感じられるような細やかな表現が女性ならではであり、「をんなうた」の素晴らしさを現代の私たちに時を超えて伝わってきます。

 歌人である夫婦の出会いから結婚、子育てと妻の乳がん発病・再発そして旅立ちを、380首の相聞歌とエッセイで紡がれた『たとへば君 四十年の恋歌』。出会いから結婚後、互いが連れ合いのことを歌にし、それらは少なめに数えても河野裕子氏は500首余、永田和宏氏は470首ほどの相聞歌があるそうです。永田氏は妻の死後も彼女のことを想い、100首以上の挽歌を詠んだとあります。相手のことを想いそれを歌にするなんて、歌人であるからこそできる愛情表現だとうらやましく思います。恋人・夫婦同士でお互いの気持ちを言葉で表す、それも何十年と付き合っていてもそれができるということは、なかなか難しいと感じます。出会いの頃の高ぶる感情や、末永く夫婦ともに生きていきたいと感じさせる歌を読んでいると、同じようにドキドキしたりせつなくなったり、心揺さぶられます。 
 日本を代表する詩人谷川俊太郎氏の60余年にわたり紡がれた作品から、恋と愛の詩を集めた『私の胸は小さすぎる』。選者は、中国河南省出身の詩人・田 原(ティエン・ユアン)。日本への留学中に谷川氏の詩に触れ感銘を受け、谷川作品を中国語に翻訳した「谷川俊太郎詩選集」を刊行し中国で紹介。また日本語で詩集を刊行し、詩の文学賞である第60回H氏賞を受賞。田氏こだわりのセレクトに、老若男女問わず楽しんでいただける詩集となっています。表紙がかわいいピンクなので、ピュアな恋や愛の詩が書かれているのかしら…と予想しますが、なかなか谷川氏の詩は深いです。初恋のようなキュンキュンする詩もあれば、大人な恋の詩もあり、どこかに自分に共鳴する恋の詩があると思います。また谷川氏による自問自答の恋愛論を収録。谷川氏曰く、「詩の解釈はその人それぞれ違っていい」とのことですので、自分の気持ちの赴くまま感じてみてはいかがでしょうか。 MCL編集部(修)

三冊堂205号 (2015/08/20)