2024年 (令和6年)
11月22日(金)
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 初詣に行くと必ず通る「鳥居」。神社の参道の入り口に立てて神域を示す門という存在でしかないと思われるそれは、その歴史を辿ると古の日本の姿をも見ることができます。古今東西の膨大な資料から鳥居について探った『鳥居』は、西洋近代美術史を専門として教鞭をふるう著者ならではの視点がおもしろいです。鳥居は本来、聖俗を瞬時にして分かち、つなぐ機能を持つ「祭場の標識」であり、しだいにその機能が薄れて「門」としての存在だけが強調されていったのだとか。あとがきで、古くなったというだけで安易に建て替えられ貴重な作例がなくなることを嘆かれていますが、鳥居の背景にある歴史も失われてしまうのかもしれません。

 祭りの屋台で必ず見かける「金魚すくい」。室町時代に中国から伝来した金魚は、実は真上から鑑賞するもので、そのポイントは尾びれの揺れの美しさにあるそうです。日本人になじみのある「朱文金」という品種は、朱色と浅葱色を基調とした鮮やかな色合いが特徴。魔除け、めでたいなどの意味を持つ赤は、日本で尊ばれた色ゆえに金魚が自然と浸透していったそうです。日本人とかかわりの深い金魚のあれこれを金魚卸問屋の七代目が綴った『金魚のはなし』。
 ほんのりとした暖かさを感じると必ず思い出す言葉、「梅一輪一輪」。「梅一輪」という作品がある徳冨蘆花は、『自然と人生』の中でも梅について触れた作品を残しています。”梅香は香を漬し、椿は紅を流す。麥の緑潤いて、山の碧煙れり。”とは、「初春の雨」の一文。古来から愛でられていた梅は、さまざまな風景を見せてくれます。

三冊堂171号 (2015/01/08)