2024年 (令和6年)
12月22日(日)
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(ま) 「あん」は11回書き直したそうですが、どのような変更だったのですか?
(ド) (書いているうちに)何が正解なのか分からなくなった。差別をする側が主人公なのか、もっとエンターテインメント性を高めなくてはいけないのかとテレビ番組のどらやき選手権を取り入れたりと、いろんな試行をした。最終的には、最初に思いついた一番シンプルな形にした。結末も全く違う。「あん」の朗読劇ではまったく違った終わり方をしている。映画の終わり方も書いたが、それだと仙太郎の人生になる。徳江さんに重きを置きたかった。本では余韻を残す終わり方にしました。

(ま) ハンセン病について知らない人が多いことにあらためて驚きました。
(ド) 基本的に興味がないんでしょうね。意識しないと視界には入ってこないでしょう?ハンセン病は完全に過去のこと。根絶した病気に関心はない。(日本は)他国(の対応)からすべてが30年遅すぎる。もっと僕が早く本を出してあげればよかった。タイミングもあったが、もう10数年早ければという思いがある。(元患者の)平均年齢は80いくつ。多摩全生園にも(元患者は)200人しかいない。多くの意識は「元患者の方がいなくなったらこの敷地はどうなるのか」ということになっている。

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(ま) ハンセン病は風化させるべきではないと感じます。
(ド) 「風化させるべきではない」といっても、自然の流れに対しては何もできない。「ハンセン病の差別ひどいね」といっている間は、風化してしまうと思う。「差別はいけない」という上から目線だと、何も伝わらない。徳江さんは作った人物だが、苦難の道をへてきたからこそ、皆がはっとするような人生の視点を感じる。例えば(元患者の)森元さんは片目を失明しており、歩くのもやっと。でも30秒に一度は人を笑わさないと気が済まない。そのユーモアのセンスに励まされる。むしろこういう人生をへてきたからこそ、我々にない感覚をお持ちです。そんな人生の師がいると、(元患者を)とらえ直していかないと。ハンセン病の差別問題にとどまらず、難民問題、ヘイトスピーチをどうするのか。もっと(現代社会が抱えるさまざまな問題に)転じていかないと、とも思います。

(ま) 相模原殺傷事件など、障害者が生きている意味はないと考える人もいます。今の日本をどう見ますか?
(ド) 原発事故は、人や社会の役に立つことを考えただけの結果と言えます。もう一ついうと、2000年から3年間、米国で生活し、9・11の後、イラク空爆の後、アメリカがどう変わったか、つぶさに見ましたが、社会は、いとも簡単に変容する。社会にはどこか魔物が住んでいて、思いがけない方向に動く。その社会を「完全正義」と思って、自分の人生を丸投げするのは危ないことだと思っている。そういう意味でも「社会の役に立たないと生きている意味がない」という言葉はもろい。 (障害者を殺傷した)相模原事件も呆然とするしかない。ネットを見ると彼のやったことを賛同する声も多く、びっくりする。僕の書いた(物語の)方向に世の中進んでいる実感はまったくはない。でも、映画を見てもらったり、講演で読者が広がってきています。

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(ま) 活字離れが進んでいる気がします。
(ド) 活字離れはしていない。ネットで活字は読んでいます。でも、ネットで2、3時間読むと、本を買って読む気はしない。だが、「本を読まなきゃいけない」という説得力のある言葉が自分にない。むしろ、「本を読まなきゃだめなんだよ」と言う人の意見に対して、「そんなに簡単に人の意見に流されるような人になるなよ」と言いたい。
「80日間世界一周(ヴェルヌ著)」を読んで自分も世界を旅したてみたいと思った。小田実の「何でもみてやろう」を読んで自分もニューヨークに行ってみたくなった。高校生のころ、こうした本や開高健の本を読み、「世界に出ていかないと」と焦ってうずうずしていた。そういう体験なら語れますが、だれかに本を読めとは言えないですね。

(ま) おすすめの本はありますか?
(ド) 念願かなって「星の王子さま(サン=テグジュベリ著)」の全訳を出します(昨年12月に出版)。後書きに力を入れまして、「星の王子さま」は何か分析して書いている。一見、子供用の物語に見えるが、大人じゃないと理解できない深い深い話です。「星の王子さま」から外国文学のふたを開いてほしいと思います。今、小田実、開高健の時代と違って、海外のことを書いた本はまったく売れない。「日本すごいぞ。最高」という本が売れる。「日本最高」と思うのはいいが、自己満足的なところがあります。やはり外国文学にある程度触れたほうがいいと思う。もちろん日本文学も触れての話ですけど。バランスよく読んでほしいなと思います。カフカでもポール・オースターでも何でもいいです。日本のものを1冊読んだら、外国のものを1冊読む。そういう感じがします。

【ドリアン助川】
1962年東京生まれ。早大第一文学部東洋哲学科卒。大学在学注に劇団を主宰。雑誌ライター、放送作家などを経て、1990年にバンド「叫ぶ詩人の会」を結成し99年まで活動。その後、渡米しライブ活動などをする。帰国後はライブと執筆活動を展開。著書に絵本「クロコダイルとイルカ」「バカボンのパパと学ぶ老子」など。現在、女優の中井貴恵さんと一緒に、「あん」の朗読劇で全国を巡回している。

文:まぶさLED(黒井ねこ)