2024年 (令和6年)
4月25日(木)
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= 福原さんの目に留まった一文 =

 “北の国に本箱を持ちませんか?”

 福原さんと北の本箱との関わりは、福原さんが全国紙に掲載されていた北の本箱の記事を見かけ、ご本人自らが幕別町図書館に問い合わせをしたことに始まる。「大勢の人に本を見ていただけるのはありがたい」と言う福原さんから送られた本は、現在5千冊。ご自身の著作を始め、経営、植物、日本文化、芸術、詩歌に加え、絵本など多岐にわたり、福原さんの本棚だけで、ありとあらゆる分野の本に触れることができる。

 

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北の本箱、福原さんの本棚。多種多様の本が並ぶ。

 

 

= 本に挟み込まれたメッセージ =

 「僕が送っている本は、自分で買ったものもあれば、いただいた本もある。その中には、興味がある本もあれば、興味の薄い本もあります。まさに多種多様ですが、買った本もいただいた本も、生きると思って送っています」と、送る本を選ぶ基準について説明する福原さんは、図書館とその先の利用する人へ視点を向けている。
 「書評を読んで自分で買った本は、誰が、どういうことを言ったか分かる方が良いかと思って、必ずその書評の切り抜きを本に挟んで送っているんですよ」。
 また、数多い美術館の展覧会図録については、「幕別の方が実際に東京に来ることは、遠くてなかなか難しいですよね。でも、カタログであれば、幕別にいながら世界の名作を見られる」という思いから選んでいるそうだ。
 段ボールに詰められた本には、そういった福原さんからの想いも込められていた。

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福原さんから送られた本と書評の切り抜き。新聞社と日付も書かれている。

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= 本が持つ情報で並べる「文脈棚」 =

 幕別町図書館では、日本十進分類法という0から9の数字を用いた図書分類法を使って本を並べていた。図書館の蔵書を厚くしている福原さんの多重多層な本をその通りに並べると、福原さんの本が持つ雰囲気を表すことができない。そのため、福原さんの本棚は、「文脈」を意識した本の並べ方、いわば、その本が持つ「知」をさまざまな角度からみて、本と本とをつなげるという並べ方に変えている。

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 例えば、「資生堂」から連想した「花椿の赤」というキーワードから赤い表紙の本だけを並べたり、「広告」というキーワードから写真やデザイン、言葉に関する本を並べたりといった感じだ。幕別町図書館では、そのような本の並べ方を「本棚編集」と呼んでいる。

 

◆◇福原さんの本棚◇◆ 

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 「最近は、タイトルのつけ方が下手な人がいるんですよ。中身に触れないとわからない。そういった面では、編集を使うのはいいかもしれませんね」と言う福原さんに、もし自身で編集するとしたらどのようにするかと尋ねると、「そうだね、簡単には言えないかな…。僕は一つのものにこだわらないんです。いろいろな本に触れて、いろいろな知識を得ることが大切だと思っているから。」と笑って答えた。
 書評など本に挟まれたメッセージ、本物をいながらにして見られるカタログ。福原さんの本には、まだまだ見せ方の可能性があるようだ。

 

 

= 本は自分で探すもの =

 入手困難な貴重本が並ぶ北の本箱。しかし、十勝は圧倒的に書店数が少なく、入手しやすい本でも、実際に本を手に取る機会が僅少だ。そういった側面での地域格差について尋ねると、福原さんは「無い」と、きっぱりと答えた。「新聞の広告や書評は参考になりますね。出版社が出す新刊案内などは愛読書の一つでもありますが、役立つ本も多く載っていますよ」そして、「デジタルでなくとも、古い方法も役に立つんです」とさらに続ける。

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 「僕は、本は自分で探した方が良いと思っているんです。だから、探し方も自分で考えなければいけない。書評や新刊案内を読むことも方法の一つだけれども、互いに興味のある本を紹介し合える友達、『書友(しょゆう)』をつくるといいでしょう」。
「僕は絵本で育ったようなものなので、今でも絵本が好きです。出版社の『こぐま社』の社長は知り合いなので、おすすめの絵本を送ってくれているんですよ」。
 福原さんの著作の中にある、“網を大きくしてアンテナの向きを変えるだけで、大切な情報は入ってくる”という言葉を実感した。

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福原さんが書かれた書評と本。「人間的魅力に満ちている」というコメントに、思わず本を手に取りめくった。

 

 

= 本のこれから =

 そして、話題は若者の活字離れに。福原さんは、「若者が本を読まなくなったとは、必ずしも言えないと思いますよ」と言う。「なぜかと言うと、2009年に刊行した僕の『だから人は本を読む』の新装版(『教養読書』東洋経済新報社)を出すことになったんです。それはつまり、若い人が本を読むようになったからです。読ませる工夫があれば、若い人も本を読むんです。読ませる人の努力が足りないだけなんです」と、福原さんは力強く言った。

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 では、本を届ける役目の図書館は、これからどうしていけば良いのか。「幕別町図書館の取り組みは、いただく手紙などで、何をどのように思っているか、考えているかが分かります。北の本箱の本が、大勢の人に見られているのは嬉しいことです。僕は、本は自分の手元に置きたいので図書館に通った経験は無いけれど、図書館は上手に使うと良い場所ですよね。もっとたくさんの人に来てもらうことで、より価値が高くなるのではないかと思っています」。
 読ませる人の努力。幕別町図書館のその一つは、まさに北の本箱だ。これからも、福原さんから届く本で編集は重ねられていく。

 

 

 

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福原さんの優しいお人柄に、当初の緊張がほぐれる。記念の一枚は、とても貴重だ。

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取材を行った銀座の資生堂本社。建物とウィンドウ・ディスプレイの美しさに見惚れる。

 

 

【福原義春】
 1931(昭6)年生まれ。株式会社資生堂名誉会長。現在、東京都写真美術館名誉館長、企業メセナ協議会名誉会長、文字・活字文化推進機構会長など多くの公職を務める。
 財界きっての読書家としても知られ、幅広い分野で執筆活動も行っている。著書に、『道しるべをさがして』(朝日新聞出版)、『美:「見えないものをみる」ということ』(PHP研究所)、『本よむ幸せ』(求龍堂)などがある。

 

取材・文:MCL編集部(そ)
撮影:まぶさLED(黒井ねこ)/まぶさLED(ひより)