絵本作家のやなせたかしさんがアンパンマンを世に送り出したのは、50歳を過ぎてからのことでした。94年の生涯で数えきれないほどの作品を残したやなせさんの著書から、今回はアンパンマン以外の絵本を紹介します。
ある国の動物園に心の優しい臆病なライオンがいました。いつも震えているので、名前はブルブル。そんなブルブルを母親の代わりに育てたのは、ムクムクというメスの犬でした。ライオンと犬。2頭は本物の親子以上の強い絆で結ばれますが、ブルブルはサーカス団に引き取られ……種族を超えた親子の絆に心温まると同時に、人間の身勝手さを痛感する『やさしいライオン』。やなせさんの初期の名作です。
狼のウォーに母親を殺された子羊のチリン。復讐を誓ったチリンはウォーに弟子入りし、必死に戦うための術を身に付けます。やがてどこからどう見ても羊には見えない獣へと成長したチリンは、ウォーと共にある牧場を襲撃することになりますが……「復讐からは何も生まれない」というテーマを扱う作品は数多くありますが、読んだ後にここまで強烈な喪失感に襲われる絵本はそう無いのではないかと思います。可愛らしい表紙からは想像もつかない結末を迎える『チリンのすず』。
オビエ村の人々は高い山の上に住む「キラキラ」という怪物をひどく恐れていました。村に住む勇敢な若者・キリはキラキラを退治しようと一人で山へ向かいますが、それきり帰ってきません。キリの兄・キルは弟の行方を追って山を登りますが、そこで見たものは……自分の「普通」と相手の「普通」が同じとは限らない。それでも人は自分と違うものを「普通ではない」「恐ろしい」と考えて排除しようとしてしまう。1975年に発表された『キラキラ』。今こそ、多くの人に届いてほしい作品です。 MCL編集部(小)
三冊堂612(2023/06/15)