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今月24日、アメリカ出身で日本文学と日本文化研究の第一人者であるドナルド・キーンが永眠。2011年の東日本大震災発生直後に日本へ帰化することを表明し、大きな反響を呼んだことは記憶に新しいと思います。
「日本のどこが一番好きですか」という定番のものから、「日本文化は世界にただ一つしかないユニークなものだと思いませんか」というアカデミックなものまで、日本人の質問から精神構造や文化を分析した日本人論、『日本人の質問』。前述の質問では、海外において、日本は個人より集団を大切にするというのが一般的な見方ではあるが、明治以来の日本文学は「個人」を発見する過程を描写するものであること、日本で最も広く尊敬されている人は皆、個性の強い人であることから、日本文化を特徴づけるのは、あくまでも個人であると思いたいと回答しています。
海外での講演の際、キーン氏は日本文化のユニークさを口をすっぱくして力説されていたようですが、「日本文化は中国文化の猿まねだと思いませんか」という質問を受けるようです。現在は異なりますが、中国はあまり翻訳を好まない国民性があったそうです。翻訳はある言語で表現された文章の内容を原文に即して他の言語に移しかえることを言いますが、本書の著者は、「深い読書」をすることだと述べています。赤毛のアン、不思議の国のアリスなど、不朽の名作を翻訳しながら、その醍醐味と魅力を語る『翻訳ってなんだろう?』。日本語とは異なる言語で書かれた登場人物の心情を読み解けるということに震えます。
キーン氏は、「正岡子規」という書物で、俳句と短歌の最大の革新者である正岡子規の生涯を自身の切り口で記しました。詩や短歌や俳句は難しいという先入観を一掃するセレクション、『近現代詩歌(日本文学全集29)』では、スタイルの基本理念である写生という言葉のとおり、情景がありありと目に浮かぶ歌、心の水面にしずくが落ちるような歌がピックアップされています。読み解けない、呑み込めない著作がまだあるものの、偉大な人がいなくなったということだけは、はっきりと分かります。 MCL編集部(そ)
三冊堂389(2019/02/28)