「野蛮人」とは自分のアタマで考るのをやめ、「順応の気構え」を持つ人のことを指すそうです。複雑な現代社会で起きていることを正確に理解するためには、さまざまな知識が必要で、しかしながら、1人の人間の能力や経験には限界がある。この限界を超えるには、他人の知識や経験を自分のものとして取り込むことが重要で、その最も効果的な方法が読書だと述べています。『野蛮人の図書室』は、読書によって野蛮人を脱し、教養人になるための本を紹介したブックガイド。「人生を豊かにする書棚」など全4章からなり、とりわけ、第二章「日本という国が分かる書棚」、第三章「世界情勢がわかる書棚」は、原文を引用した解説文が分かりやすく、世界の出来事を知りたくなります。
ロシア語会議通訳者であり、エッセイスト、作家でもあった故・米原万里さんは、嫌いな人が書いた本でも、その著者とは切り離し評価できる教養人だったそうです。米原さんの著作『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は、著者が1960年代に過ごした、プラハのソビエト学校の同級生と再会するまでのエッセイ。その学校は東欧諸国の高級官僚や亡命者など、国籍も経歴もさまざまな親を持つ子どもたちが集まっていて、その数は50カ国以上にも及んでいたことに驚き、共産主義・社会主義や鉄のカーテンなど、深いところまで理解していなかった言葉が、急に目の前に表れるような感覚になります。単なるエッセイではなく、東欧の歴史を学んだような気がしました。
今の岩手県の北部から青森県の下北、津軽の地域が日本国の中に入ったのは、12世紀(西暦1101年から西暦1200年)のことだそうです。歴史学者の網野善彦さんの『歴史を考えるヒント』では、日本という国号を定めた頃の地域の呼称について触れられています。また、日本は独立した島国ではなく、実は全て狭い海でつながっているだけで、それを「島国」という領土の範囲としたのは、国境を定めることで国民国家を形成するという明治政府、日本の近代国家によるものだったそうです。先日、ニュースでロシアのイワノフ大統領府長官の択捉島訪問が取り上げられていましたが、日本にも世界にも視点を向け、知識を深めていくことが必要なときなのかもしれません。 MCL編集部 (そ)
三冊堂158号 (2014/09/25)