思い出の紙カツや海苔巻き、ビフテキ、昔なじみのミルクコーヒー…『台所のラジオ』は、全十二編の短編集ですが、どの物語にも、懐かしさを覚える食べ物や飲み物だったり、昔から変わらずにある場所などが登場し、郷愁を誘う一冊です。十二編の物語は、日常の一コマを切り取ったような物語、少しおとぎ話のような物語など、ジャンルは様々ですが、どの物語の主人公も共通してラジオを聞いています。主人公が利用する情報メディアに、インターネットや携帯電話、テレビでもなくラジオが置かれていることで、物語が一層懐かしさを帯び、読者の心の温もりも増していきます。
昭和30年から40年代の家庭用品・日用品、子供服やおもちゃなどが写真で紹介されている『昭和30~40年代みんなの想い出アルバム』。人形・マスコット作家である著者は、当時の女の子洋品コレクターということもあって、花柄の炊飯器やポット、花模様のガラスのコップ、足踏みミシン、編み機など女性目線の懐かしいモノも多数紹介されています。最近、この当時を描いたTVドラマやアニメ、映画が次々とヒットしたこともあってか、自分の家になかったモノでも、なぜか”懐かしい”感覚にとらわれ、心地よい気持ちにさせてくれる一冊です。
終戦の年の昭和20年から昭和39年の東京オリンピック前後までの日本の食文化の変遷を紹介した『食でたどるニッポンの記憶』は、日本というよりは、著者個人の食の変遷をたどっています。穀物や野菜中心の食卓に魚で彩りをつけるのが一般的で、お腹を空かせた子どもでいっぱいだった日本の家庭は、戦後、肉や海外のものが食卓にのぼることにより激変が始まりましたが、高度成長期にはさらに西洋化が進み、現代の飽食の時代を迎えるに至っています。古き良き日本の伝統食を見直そうというのが著者の願いですが、なにより、懐かしい食材や料理に読んでいるとお腹が空いてくる一冊です。 MCL編集部(吾)
三冊堂346 (2018/05/03)