ジャンル分類と50音順の並べ方だけだと、本が孤独に見えることがあります。本を文脈でつないでみると、本と本がつながって、違う表情が見えてきます。なぜ、三冊かというと・・・
井上ひさしは「ニホン語日記」にこう書いています。『混沌たる時の流れを過去・現在・未来と三つに区切ると、時間が辛うじて秩序だったものになる。鮨屋の主人は自店のにぎりを「松・竹・梅」 に分け、鰻屋の亭主は自店の鰻丼を「特上・上・並」の三つに分けて、店の売り物のすべてを表す。混然としたものを一つで言ってはわけがわからない。二つで言っても据わりがわるい。三つに区分して言うと突然、構造が安定し、混然としたものの正体が見えてくる』
本と本 本はつながる。
本と人 本とつながる。
人と人 本でつながる。
さあ、「三冊堂」!開店のお時間です。
優れたミステリーであり、至高の恋愛小説でもある、歌野晶午の『葉桜の季節に君を想うということ』。2003年に発表された本作は、日本推理作家協会賞や本格ミステリ大賞を受賞し、「このミステリーがすごい!」第1位にも輝くなど、様々なミステリー賞を総なめにした作品です。タイトルの印象とは少し異なり、物語はハードボイルドな一面を覗かせます。登場するヤクザたちの姿は生々しく、悪徳商法の恐ろしさも濃密に描かれているこの作品。悪徳商法に騙されてしまった女性・古谷節子や、離婚してしまった成瀬の友人・安藤史郎も加わり、ばらばらに展開される一見何の関係もない登場人物たちが、見事にひとつの線として繋がる瞬間は興奮してしまいます。すべてのトリックが明かされた時、秀逸で美しい、このタイトルの意味を知ることができるでしょう。花を咲かせるときだけ注目されがちな桜の木ですが、花を落とし、葉を茂らせ、綺麗に紅葉した桜を見てみたくなる小説です。
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- 作成者:MCL編集部