2018年(平成30年)
7月22日(日)
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 「それはゾウの歯だ」。
言い切ったのは15歳の少年だった。
1969年7月26日、旧忠類村晩成(忠類市街地から東へ約14㎞)の道路工事現場。
ツルハシに「カチン!」と響きが伝わる。
土の中から出て来たのは、わらじのような模様がある石の固まり。
定時制高校に通いながら測量助手をしていた少年が、中学の教科書にあったゾウの歯に似ていることに気付く。
これがきっかけで、ナウマンゾウの骨がほぼ一頭分、世界で初めて掘り上げられたのだ。

※写真は、1967(昭和44)年に忠類晩成地区で偶然に発掘されたナウマン象の臼歯

 実物は北海道博物館に保存されている。 復元した骨格模型は20体以上が作られた。
忠類ナウマン象記念館(88年オープン)や全国の博物館で展示中だ。
その勇姿は私たちに多くのことを語りかけている。

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ナウマン象の全身骨格復元模型(ナウマン象記念館)

 現場の地層や化石が物語ること。
アフリカにいるような巨大なゾウが忠類に!!
生息していたのはおよそ12万年前。
地質時代の第4紀更新世にあたる。
当時は氷河期と温暖期を交互に繰り返していた。
氷で覆われた世界が終わって、現在より温暖な気候だった十勝平野。

そこにナウマンゾウの群れがあった。
ある日、初老の雄ゾウが沼地に水を飲みにやってきた。
ところが深みにはまり、起き上がろうとするももがきながら最期を迎えるのである。
(沼にはまったナウマンゾウのジオラマ模型は忠類ナウマン象記念館に展示)

 雄ゾウの上に土砂や岩石が堆積していく。
長い時を経て最後の氷河期が幕を閉じ、日本のゾウは絶滅した。
しかし、雄ゾウの臼歯が、47年前のあの日に見つけられたのだ。
臼歯だけではない。
化石骨40点が発掘された。
ナウマンゾウの全身が再び現れたのである。
(ナウマンゾウが埋まっていた状況の再現模型は忠類ナウマン象記念館に展示)

 旧忠類村は幕別町と合併して今年で10年。 「ナウマン象のまち」として全国に発信している。
しかし、化石が発見された経緯や発掘調査、復元のこと、
研究者によって解明されたこと、村挙げての熱気など、
ナウマンゾウにまつわる様々な事実を知る人はどのくらいいるだろうか。
年月が経ち、記憶から薄れているのではないか。

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ナウマン象親子の生体復元模型(ナウマン象記念館前)

 当時忠類村の人口は2600人。
ここに全国から170人もの発掘調査団がやってきた。
夢を抱き6000人以上が見学に訪れた。
発掘の指導をした京大の亀井節夫先生や
十勝団体研究会のメンバーをはじめたくさんの人の手によって
一躍世界に誇る「ナウマン象のまち」になったのである。
多くの書物が発刊された。
発掘状況を逐一伝えるガリ版刷りの新聞「ナウマン速報」(1号から21号)や
学生など100人以上が思い出を綴った「記録ノート」なども残されている。
次世代に伝えたい宝物は数知れない。

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 化石発見から半世紀近くが経った。
「忠類の発見なしに今のゾウ研究はない」。
研究者たちは言う。
化石の中にマンモスやヤベオオツノジカの臼歯があったことも判明。
同じ地でナウマンゾウもマンモスも、そして巨大ジカも生息していたのだ。

太古の北海道を解明する材料はまだこの地に眠っている。
もし15歳の少年があの日現場に居合わせなかったら、
ナウマンゾウは日の目を見ることがなかったかもしれない。

忠類ナウマン象記念館
北海道中川郡幕別町忠類白銀町383番地1 TEL:01558-8-2826
開館時間:午前9時~午後5時
休館日:火曜日(火曜日が祝日の時は翌日)、年末年始
入館料:一般300円、小中学生200円(JAF会員は100円引き)
ホームページ
http://www.town.makubetsu.lg.jp/kyouiku/matikadogallery/naumanzokinenkan/naumanzo.html

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発掘の際の産状を模型にしたパネル(ナウマン象記念館)

文/まぶさ(うっちーみほこ)

参考資料:
・『忠類産ナウマン象~その発見から復元まで~』
 (北海道開拓記念館・編/1972)
・『ナウマン象のいた原野』
 (十勝団体研究会・編/北海道大学図書刊行会/1974)
・『十勝の自然を歩く』
 (十勝の自然史研究会・編/北海道大学図書刊行会/2000)
・『時をこえて十勝の川を旅しよう!十勝の川の成り立ちから、
 川の歴史・文化まで』(北海道開発局帯広開発建設部・編/2008)
・『象のきた道』(亀井節夫・著/中央公論社/1978)

【マメ知識】
化石のゾウと本物のゾウ。 両方を見ることができるのは、十勝です。

北海道内でゾウが見られるのはおびひろ動物園だけ。
(国際取引の規制があり、新たな飼育が難しい)

おびひろ動物園 北海道帯広市字緑ヶ丘2 TEL:0155-24-2437
夏期開園4月29日~ 午前9時~午後4時半
ホームページ
http://www.city.obihiro.hokkaido.jp/zoo/

インドゾウの雌「ナナ」51才が飼育されています。
(忠類で発見された初老の雄ゾウも推定年齢50才代)